1-2 探偵社

この日、早苗の父である地井敬介と母・恵子と早苗の親友である和木優子は探偵社を訪れていた。
「嵐はすごい人気者で、こういう至近距離での場面はなかなか撮れないんでしょう?」
「そうですね、、、難しいと思います」
伊勢と和木優子のやりとりを静かに聞いていた早苗の父・地井敬介は、横からかぼそい声で話し出した。
「先日、娘の勤める会社から、突然、電話がありまして、娘と連絡がつかず困っているというのです。聞いてみると、娘はシンガポールの取引会社で仕事をすることになっていましたが、行っていないというので、日本の勤務先に連絡が入ったそうです。それで勤務先の人が娘に連絡をとろうとしましたが、不通になっている状態でしたので、心配してくださって、娘のマンションに行っていただいたとのことです。しかし返答がまったくないというので、私どもに連絡があったのです。娘は東京の大塚にあるマンションに一人住まいをしております。私たち家族は埼玉に住んでおりますが、娘が海外に行く予定になっていたなんて聞いていなかったものですから、もしや自宅で倒れているかもしれないと思い、急いで私と息子が娘のマンションに行ってみたのです。大家さんに事情を話してドアを開けてもらったのですが、やはり本人はいませんでした。それで会社の人と相談して警察に届け出ることにしたのです。警察官は一緒に早苗の部屋を見てくれたのですが、「特に不自然なところはなさそうですね。お話を伺うとシンガポールに行ってらっしゃるとのことですから、もう少し娘さんからの連絡をお待ちになってみてはいかがですか?〕とのん気なことを言っているのです。私たちとしては、会社とも相談し、娘の携帯電話が不通になっているし、至急、捜索をしてほしいと頼みましたけれど、その後、警察からはなんの連絡もなく、いたずらに日が過ぎているのです。娘と連絡がとれないので心配でしようがありません。知りえ
るところには連絡をしてみました。ここにいらっしゃる和木さんは娘の親友で、先日、娘からその郵便物を受け取ってらしたことがわかったのですが、今のところ、ほかは誰も娘がどこにいるのか知らないのです。会社はコンピューター関係の仕事をしておりまして、説明していただいたのですが、娘は仕事でシンガポールへ行くことになっていて、現地のホテルには一晩、泊まっていたことはわかったそうです。しかしそのホテルは、すでにチェックアウトしたとのですが、その後のことがよくわからないと言うのです」話し終わると目の前の湯飲みを取り上げ、一気に飲み干した。敬介はあまり熟睡できていないような表情をしている。隣に座っている妻の恵子は心細そうな顔で伊勢を見つめている。
実はこの探偵社は、早苗の勤めるオフィサーソフト社と多少の取引関係があった。優子は夫の浮気について早苗に話をしたのがきっかけで、早苗が優子にこの探偵社を紹介してくれたといういきさつだった。しかし今度は早苗の行方を捜すために、優子が早苗の両親にこの探偵社を紹介することになったのである。

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